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福岡高等裁判所那覇支部 昭和50年(ネ)40号 判決 1977年3月25日

控訴人 国

訴訟代理人 渡嘉敷唯正 中川康徳 瑞慶山良宗 ほか一名

被控訴人 金城嘉四郎 ほか二名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決二枚目表末行及び四枚目表四行目に各「五月八日」とあるを各「四月二九日」と改め、同二枚目裏一行目の「きびなご」を削り、同別表(三)一枚目裏一行目に「1966」とあるを「1961」と、同別表中「きびな」とあるをすべて「きびなご」とそれぞれ改める。)であるから、ここにこれを引用する。

一  主張

1  控訴人

(一) 本件損害賠償請求権の不発生について

(1) 本件課税は、有効な租税法に基づく適法な課税である。

即ち、米国民政府の長たる高等弁務官は、一九六四年(昭和三九年)五月一二日、旧物品税法によつて、既に賦課、納付、徴収された物品税は、すべて有効である旨の高等弁務官布令第一七号改正布令第三号(以下単に改正布令第三号という)を公布施行したが、右改正布令第三号は、米国民政府が従前とつてきた立場を法律の上で明文化し、確認したもので有効な租税法というべく、その有効性は米国法上も我国法上も是認せられるのみならず、租税の本質及び租税法の根本原則からしても肯認されるべきものである。蓋し、改正布令第三号を有効な租税法と認めても、それによる社会的犠牲は生じないこと、徴収された本件物品税は、社会公益のために有効に使用されたものであること、及び本件物品税は、被控訴人らに返還して私的に費消させるよりも、適法な税金として合法化し、国家目的に使用する方が社会的利益は大であること、以上の理由による。

(2) 本件課税に当つて、琉球政府の税関職員に過失はない。

即ち、高等弁務官布令第一七号による旧物品税法第一条別表第三類第一三号掲示の課税物品についての解釈に関しては、琉球政府内部において税関職員らが二か月余にわたり慎重に検討したが、意見が分れて決し得なかつたため、終局的には、当時絶大な権力を有していた米国民政府の原判決摘示にかかる書簡による有権解釈と課税指示に従つたもので、該時点においては、米国法上右布令第一七号の如き立法例を検索することも、通達課税の司否を検討することも困難な実情であつたのみならず、かかる書簡は、法令と同等以上の威力と通用力を有し、これに逆らう行政をすることは、琉球政府の被統治機関的ないし代行機関的立場からしても、実際上出来るものではなかつたから、このような事情のもとでとつた琉球政府税関職員の本件法令の解釈及び課税措置には、過失は存しない。

(3) 本件納税によつても被控訴人らに損害は生じていない(ちなみに、控訴人は、原審において、損害の発生について明瞭に争つている。)。

(イ) 本件物品税は間接税であり、間接税における実際の税負担者は、当該物品の消費者である一般大衆である。本件物品は、輸入価格に本件課税相当額(二〇パーセント)を加えた以上の価格で消費者に販売されているのであり、従つて本件物品税の負担は消費者に転嫁されているのであるから、納税義務者たる被控訴人らには実質上の損害は生じていない。

(ロ) 被控訴人らは、いずれも昭和三四、五年頃からさんま等の生鮮魚介類の輸入販売を業とするようになつたものであるが、これらの生鮮魚介類には、同三三年一二月から輸入価格に対する二〇パーセントの物品税が課税されており、当時の流通過程においては、輸入さんま等には税金を含んだ市場価格が形成確立されていた。従つて、利潤を追求する商人としての被控訴人らは、二〇パーセント課税のもとにおいても、同業者が得るであろう通常の利潤を得て商売をしていたのであり、被控訴人らには、本件課税によつて何らの損害も発生していない。

(ハ) 被控訴人らは、納税当時において、その納付にかかる物品税が確実に還付してもらえることを予見して、換言すれば、納付している税金相当額は将来において確実に利潤として計上取得できることを予想して、本件さんま等の販売価格を決定していたものではなく、また、かりに当時二〇パーセント課税がなされていなかつたとしても、被控訴人らが通常の利益を含めた販売価格に、さらに右税金相当額を利潤として上乗せした価格で、本件さんま等を販売できたという証拠は何もないのであるから、いずれにせよ被控訴人らに特別事情による税金相当額の損害が発生しているということもできない。

(ニ) 本件損害賠償請求権の消滅について

原判決は、被控訴人らが本件課税行為が違法であることを知つたのは、訴外名護製氷株式会社ほか二名の提訴したいわゆるさんま事件判決が確定して間もなくの昭和四八年一二月三〇日以降であると判断したが、これはしかし、他人の提起した訴訟の判決の確定時期いかんによつて自己の権利の存否が左右されるというきわめて不合理な結果を招来し、時効制度の趣旨を没却するに至るものである。

本件損害賠償請求権の短期消滅時効の起算日については、被控訴人らが原審で主張したとおり、審査請求却下の日である昭和三八年四月一日と解すべきであるがかりにそうでないとしても、本件物品税の納付最終日である昭和三九年五月一一日、もしくは、訴外玉城ウシが本件物品税と同趣旨の物品税について提訴した過誤納金還付請求事件につき、琉球上訴裁判所が右玉城の勝訴の判決を言い渡した同年同月一二日に、本件不法行為成立の客観的事実を認識したというべきであるから、これらを起算日と解すべく、それぞれ三年を経過した時点において消滅時効が完成した。

2  被控訴人ら

(一) 税関職員の過失と被控訴人らの損害について

(1) 改正布令第三号は、その内容からみて、明らかに琉球政府税関職員の過去における違去かつ無効な行為を、事後立法により、適法かつ有効な行為として取扱う旨を定めたものであるから、租税法律主義を認める日本国憲法及び米国大統領行政命令第一〇、七一三号第一二節の各規定に違反し、その効力を認めるべきではない。

(2) 米国民政府の控訴人主張にかかる書簡なるものは、税務行政に対する指導助言にすぎず、その解釈そのものが、何ら法令上の根拠を有せず、かつその誤りが重大かつ明白であるから、琉球政府税関職員としては、このような解釈を是正するための最大限の努力を払うべきなのにこれをせず、漫然右の書簡による解釈と指示に従つて本件課税をしたのであるから、税関職員の過失を否定することは許されず、たとい当時米国民政府と琉球政府とが、かりに主従の機関関係にあつたとしても、その内部関係においてはともかく、琉球住民との関係においては、所詮右過失は免れない。

(3) 本件物品税の納税義務者は、被控訴人らであつて、直接的かつ最終的な租税負担者であり、自己の財産の中からこれを納付しなければならず、積極的財産の減少を伴うものであるから、その減少額即ち税金相当額は、これを納付した以上明らかに損害である。消費者は、法律上の担税者ではなく、私経済的流通の過程を経て、たとい消費者に税負担が転嫁されたとしても、法律上は全く意味のないことであり、市場の需給関係如何によつては、いわゆる前転のみならず後転も起り得べく、消費者が常に必ず実際の担税者ともいえない。

(二) 消滅時効について

国家賠償法四条、民法七二四条の消滅時効は、被害者が加害者を知り、かつ加害行為が違法なものであることを知つたときから進行すると解すべきところ、被控訴人らは、原審主張の福岡高等裁判所那覇支部の確定判決を契機として、始めて、本件課税の違法性を知るに至つたものである。控訴人主張の玉城ウシについての琉球上訴裁判所の判決がなされた当時、その内容が公知の事実であつたとはいえず、むしろ、改正布令第三号の公布施行、その他右判決にもかかわらず、本件課税の適法性が行政当局によつて強く推進されていたのが実情である。

二  証拠関係<省略>

理由

一  被控訴人らは、生鮮魚介類の輸入販売を業とするもので、その主張のとおり、それぞれ、「さんま、さば、いか、きびなご、かじき、しいら、ふか、あじ、にしん」などの生鮮魚介類を輸入したが、琉球政府琉球税関(原判決中「那覇税関」とあるはすべて「琉球税関」の誤記と認める)の関税官らは、右輸入の生鮮魚介類(以下、本件輸人物品という。)は、旧物品税法第一条別表第三類第一三号所定の生鮮魚介類に該当するとして、同法第二条所定のとおりその価格の二〇パーセントを物品税として課し、被控訴人ら主張のとおりの取扱いのもとに、被控訴人らからの納付にかかる右物品税を収納したことは、すべて当事者間に争いがない。

二  ところで、琉球税関の関税官らの右課税行為は、琉球政府の権力作用に属する課税権の行使としてなされたものであることはいうまでもないが、右課税行為が、被控訴人らの主張するような理由で、旧物品税法の前記規定の解釈を誤つた違法なものであるかどうか、また、右課税行為をしたことについて当該関税官らに過失があつたというべきかどうかを順次判断する。

1  旧物品税法第一条は、「次に掲げる物品で別表に定めるものには此の立法により物品税を課する。」として、その第三類(課税率二〇パーセント)第一三号に、「生鮮魚介類。ただし、第七三号に掲げるものを除く。」と規定し、別表である課税物品表の第三類第一三号には、「生鮮魚介類。ただし、第七三号に掲げるもの及び琉球内生産品、繁殖用及び魚業用餌を除く。うなぎ、ます(日本文では「あゆ」とあるが不適訳と認める。)、かき、はまぐり、あなご、このしろ、しろ貝、小えび、伊勢えび、しじみ、つのがい、あわび、かいばしら、とりがい、あかがい、たこ、なまこ、こい、もろこ」と規定されていて、本件輸入物品が掲記されていないことは明らかである。

ところが、琉球税関の関税宮らが、右第一三号に掲記された一九種の品目は例示的列挙であつて限定的列挙ではなく、本件輸入物品も同号に規定する生鮮魚介類に該当すると解釈し、本件輸入物品に課税するに至つたことは当事者問に争いがない。

しかし、右は限定的列挙であつて、例示的列挙であると解すべきではなく、従つて、本件輸入物品はいずれも旧物品税法の課税の対象となるものではなかつたのに、琉球税関の関税官らは、違法に前記の物品税を賦課収納したものであることについては、既に同旨の当裁判所の判決(成立に争いのない甲第四号証。一九六六年(行コ)第二八号過誤納金還付請求控訴事件、昭和四八年一〇月三一日言渡し。)のあるところであり、旧物品税法の関係条文のたて方ないし文言、とくに前記布令第一七号の関係条項に課税対象として生鮮魚介類一九品目が特定掲記されているのに、本件輸入物品は、同法のどこにも掲名されていないのみならず、「その他の鮮魚」という概括的掲名の文言も消えていること、並びに同法制定に至るまでの沿革及びその後の改正経過等に鑑みると、当審における控訴人の主張にもかかわらずその判断は相当であつて、いまこれを変更する要をみない(なお、念のため、同号証の右判決七枚目裏末行の「一〇パーセント」は「五パーセント」の、同八枚目裏一行目の「右第四類七七号」は「右第五類七三号」のそれぞれ誤記と認める)。

2  そこで次に、当該関税官らに被控訴人ら主張の過失が有つたか否かを検討する。言うまでもなく、国家賠償法に基づく損害賠償は、公務員の故意又は過失を要件とするものであるところ、従つて、公務員の違法な職務に関する行為といえども、ただそれだけで国又は公共団体に損害賠償義務を発生させるものではないことは当然であるが、またただそれだけで公務員の故意又は過失を推認させるものでないことも明らかである。蓋し、行政行為ないし処分といわれるものが、関係法規に適合してなされるべきものであることはもとよりとしても、その関係法規の解釈について往々見解がわかれており、それぞれに相応の理由がある場合があり、公務員がその一をとつて行為ないし処分をした後、結果的にそれが誤りであつたと判断されたとしても、ただちに右公務員に過失があつたとすることは酷であり相当でないというべきである(最高裁判決昭和四六年六月二四日民集二五巻四号五七四頁参照)からであつて、本件についても、当該関税官らの故意は論外として、過失即ち自らのした前記課税行為が違法な結果を招来することを知るべくして知らなかつたかどうかが、具体的な事実関係の検討をとおして問われなければならぬ所以である。

<証拠省略>によれば、旧物品税法第一条別表第三類第一三号の規定は、一九五八年(昭和三三年)一〇月二七日公布施行された高等弁務官布令第一七号による改正によつて規定されるに至つたものであるところ、当時、琉球税関及びその管轄庁である内政局において、右第一三号の規定の解釈につき検討した結果、同号にいう課税対象となるべき生鮮魚介類とは、同号に掲記されている一九種の品目に限定されるとし、従つて本件輸入物品のごとき生鮮魚介類には課税できないとする説と、右一九種の品目は例示的列挙であつて右品目に限らずそれ以外のものをも含むとし、本件輸入物品のごとき生鮮魚介類にも課税できるとする説とがあつて、いずれとも結論を出すまでに至らなかつたので、当初は、さんまなど本件輸入物品のごとき同号掲記の一九種の品目に該当しない輸入生鮮魚介類については物品価格の二〇パーセントの物品税相当額の担保を提供させたうえで、保税地域から許可前引取りにする取扱いをしていたこと、米国民政府は、同年一一月頃同号掲記の品目は例示的列挙であつてすべての輸入生鮮魚介類は課税の対象となるので同号により課税すべきであるという見解を示すに至つたが、内政局は、なおも慎重に検討を重ねて結論を出すべく、琉球税関に対する課税指示を出さずに留保していたところ、米国民政府は、同年一二月四日付書簡をもつて琉球政府内政局主税課長あてに、同号は、特に除外されないかぎり、すべての生鮮魚介類が課税の対象となるものと解釈すべきことをあきらかにするとともに、右解釈に従つてすみやかに課税するように指示してきたこと、そこで内政局では、それまで累次にわたつて税関長を始め関係課長、係長らが協議検討した結果からして、課税できるとする説にも十分な根拠があり、また、布令の最終解釈権はその立法権者であり当時絶大な権力を荷つていた米国民政府にあることなども考慮して、その指示に従うことにし、翌年一月四日付で内政局長名で琉球税関に対し課税を指示する通達を出したこと、右にいう課税できるとする説の根拠としては、それまでの物品税のもとで課税を認められてきたさんま等を課税対象から外す合理的理由がなく、現に当時立法院で可決された改正案ではむしろその税率を五パーセントから三〇パーセントにあげることとしており、この点米国民政府の側から何らかの異議もしくは反対の意向が伝えられたことはなかつたという背景をふまえ、布令第一七号の別表(課税物品表)を含む関係条項のたて方ないし文言のうえからも、生鮮魚介類の課税については、物品税という名称にかかわらず実質的な性格は関税であるから、関税義務主義の建前から言つて特に除外されたもの以外のものには課税すべきであるところ、さんま等を除外する文言は全く見出せないこと、課税から除外されるものとして掲げられている「漁業用餌」については、当時はさんまといか以外にはなかつたところから、餌用のさんまといかを除く趣旨の規定がある以上食用のさんまといかは当然課税が前提とされているものと解せられること、更に、前示1冒頭に記した如く、生鮮魚介類の具体的な品名が別表第三類第一三号の本文のなかに、しかもコロンにひきつづいて羅列されているたて方からしても、右が例示と解し得る余地があること(ちなみに、いわゆるニミツツ布告により、当時布令、布告その他すべての法令において英文が本体とされていた。)などが挙げられ、大勢は積極、消極両説いずれとも結論が出ないまま前記のとおり布令の最終解釈権者としての米国民政府の解釈に従わざるを得ないという考え方に落ち着いたものであつたこと、かくして、琉球税関では前記局長通達に基づいて課税をはじめ、被控訴人らの本件輸入物品に対しても課税し、右課税の取扱いはその後約三年余も何らの支障もなく続いたのであるが、一九六一年(昭和三六年)五月に至り立法院議会における一与党議員の質問に端を発して、旧物品税法によるこのような課税の取扱いか折からの自治権拡大の気運を背景にして社会問題化し、さらには政府問題にまで発展したので、琉球政府計画局主税庁長は、行政主席の命を受けて高度に政治的な判断から琉球税関に対し一九六二年(昭和三七年)三月三〇日に以後右課税行為を中止するように指示したこと、しかし高等弁務官は、一九六三年(昭和三八年)一月三〇日、さきに大田行政主席からなされた課税の可否についての疑義照会に対し、課税指示の回答をしてきたので、同主席は、諸般の事情を勘案して同年九月三日に至り、ようやく以前に中止した旧物品税法による課税を再開する指示を下し、琉球税関もこれに従つて再び右課税をするようになり、被控訴人らの本件輸入物品に対する課税も再開されるに至つたものであること、一方、さんま等の輸入物品につき旧物品税による課税の可否が裁判所によつて争われたのは、ようやく一九六三年(昭和三八年)に入つてからであり、玉城ウシによる過誤納金還付請求事件について琉球中央巡回裁判所で同人勝訴の判決言渡しがあつたのは同年一一月一五日であり、これが琉球上訴裁判所による上告棄却の判決言渡しによつて確定したのは一九六四年(昭和三九年)五月一二日であつたが、その後も那覇地方裁判所は一九六九年(昭和四四年)四月二日同種事件につき反対の結論を打ち出し、この控訴事件が前掲福岡高等裁判所那覇支部の昭和四八年一〇月三一日言渡し(同年一一月一六日確定)の判決であつたことと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、琉球税関の関税官らは、本件輸入物品について旧物品税法により課税するにあたつては、事前に前記布令第一七号等関係法令をその制度の趣旨並びに関係条項のたて方や文言など種々の角度から当時としては最大限慎重に検討を重ねたことがうかがえるのであつて、その結果出された積極、消極両説のうち、課税できるとする積極説、換言すれば布令第一七号第三類第一三号掲名の物品は例示であるとする説にも客観的にみて相当の根拠があると考えられる。また、根拠法令が布令であるということと当時の懸絶した政府的力関係からして、当該関税官らが米国民政府の前掲書簡による解釈を最終の有権的なものとし、その課税指示即ち右積極説に従つて自らの措置を違法でないと信じたとしても無理からぬものがあつたのみならず、その後の円滑な課税取扱い状況からして、むしろその措置は当時の琉球社会における常識に合致していたものといえよう。更に、課税開始後三年余を経てから課税が中止されたのは、布令の解釈の変更というよりはむしろ琉球政府行政主席の高度の政治的判断に基づくものであつたと目され、約一年半の中止後米国民政府のあらためての指示によつて再び課税されるに至つたことが右の消息を物語つている。最後に、この点に関する裁判所の判断も、本件輸入物品の最終課税当時客観的には未だ流動的なものであつたとせざるを得ないことが知られるのである。

してみると、旧物品税法の立法過程や租税法律主議をたてにとり、当該関税官らの専門職性をとらえて、本件輸入物品に対するその課税行為につき過失を問うことは、観念的には容易であつても、本件の具体的な事実関係のもとでは酷というほかはなく、むしろ過失がなかつたとするのが相当である。

以上のとおりであるから、被控訴人らの本訴各請求はその余の点の判断をまつまでもなく失当であり、いずれも棄却すべきである。

三  よつて、右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人らの本訴各請求をいずれも棄却し、訴訟費用につき民訴法九六条、九三条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高野耕一 大城光代 前原正治)

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